僕と母さん―――神尾秋紘と神尾夏子は幸せに暮らしてきた。狭いアパートで二人、裕福ではなかったけど、僕らは寄り添うように生きていた。幼い頃に父親を亡くして、母さんは女手ひとつで育ててくれた。自分がやりたいこともあったはずなのに、全てにおいて僕を優先してくれた。優しくて、厳しくて、ハキハキしてて、とっても綺麗な、僕の自慢の母さん。僕だけの母さんだった……はずなのに……。少しずつ、幸せだった生活は崩壊していく……。僕が世界で一番大嫌いな同級生―――江口一哉のせいで。厚かましくて、ガサツで、暴力的で……。僕の持っているものを、大切なものを……軽い気持ちで奪っていく……。自己中心的なアイツは、他人の事なんて何も考えていない……。女性のことなんて……性処理の道具としか思っていないような……。そんな最低なアイツと出逢ってしまった母さん……。僕の知らないところで少しずつ変わっていく……。化粧っ気の無かった顔には、口紅が引かれ―――地味だった服は見ているのも恥ずかしい露出の多いモノになり―――あれだけこだわっていた僕のための手料理はインスタントになり――パートが終わればまっすぐ帰ってきてくれたのに、深夜になっても帰ってこない―――母親という仮面の下に隠されていたメスの欲望を掘り起こされ、オンナになった母さんは悶え、喘ぎ、絶叫する。重ねられる嘘と逢瀬。「最近忙しくって、残業ばっかりだわ」「今日も帰り遅くなっちゃうから、適当に何か食べててくれる?」いつでも僕のことを考えてくれていたのに……気がつけば、母さんの生活はアイツを中心に回り始めていた……。
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